イギリスのEU離脱に続き、アメリカ大統領選でのトランプ氏の勝利という、悪夢かつ屈辱的な“逆転負け”が続いたせいか、新聞や雑誌には、新自由主義者どもの見苦しい恨み言が目白押しだ。
『「米保護主義」加速の危うさ』(篠原尚之・前IMF副専務理事 11月12日 Sankei Biz)
篠原氏は、大蔵省OBの元財務官で、IMF在籍中も財務省流の緊縮思想や改革絶対主義をバラ撒き続けた人物である。
その篠原氏は、今回のトランプ当選という結果を受けて、記事の中で次のように述べている。
「米国が内向きになることで、英国の欧州連合(EU)離脱や欧州での移民制限などの保護主義的な動きが強まることに懸念を抱く。世界経済が低成長にあえぐ中で、どこの国民も余裕がなくなってきている。
数年前までは国内総生産(GDP)より大きく増加していた世界の貿易量が大きく落ち込んできているのも、各国の保護主義的な政策の影響があるからだ。」
彼の主張には大きな誤りが2点ある。
1つ目は、国内産業の保護育成に必要かつ適切な貿易政策に対して、「保護主義」あるいは「内向き」だと悪意に満ちたレッテル貼りをして貶めようとしていること。
2つ目は、世界的な低成長や2012年辺りから始まった世界規模の貿易量の伸びの鈍化は、保護主義のせいだと大嘘をついていることだ。
まず、昨今の反グローバル運動や過激な自由貿易や移民政策への反発に対して、内向きだとか、自国優先主義だとか、民族の分断を煽っているなどといった事実誤認も甚だしいレッテル貼りは止めてもらいたい。
国家の存在意義や政治の目的は、自国民の生命や財産を守って生活の安寧を図るとともに、その質を未来永劫向上させ続けることにある。
よって、各国の政治が、自国民ファーストや自国第一主義に則り行われるのは、至極当然のことで、関税や規制を活用して貿易量をコントロールしつつ、国内産業の保護や雇用の確保を図りつつ、その間に技術力や人材を育成し国力増加に努めるのが、極めてスタンダードなやり方だろう。
安倍政権や与党の連中みたいに、国民をシバキながら、海外(後進国)に浄財をバラ撒くバカ者の方がどうかしているのだ。
この手のバカ者は、年がら年中「日本は世界に門戸を開くべきだ。自由貿易バンザイ‼」、「自由貿易のおかげでIPhoneが買えるんだ」、「保護主義により世界から孤立して貿易ができなくなるぞ」と騒いでいるが、子供じみた妄想を振りまいて恥ずかしくないのだろうか?
我が国は、輸出入量が、それぞれ、ここ10年余り毎年50~80兆円にも達する世界第4位の貿易大国であり、保護主義云々などまったく当て嵌まらない。
むしろ、国内産業の存立を脅かすような輸入規制の過度な緩和や撤廃を改めるとともに、雇用を確保するために野放図な資本移動や技術移転に対して、より厳しい規制を課すべき時期にある。
シリア難民がIPhoneで撮影しながら欧州の国境を喜んで越える姿を見れば、(無制限の)自由貿易なんてなくてもIPhoneくらい誰でも買えるし、保護主義=完全なる鎖国ではなく、“国内産業の維持・育成に必要な適切な規制の下での自由貿易”という意味だから、世界から孤立することなどありえない。
完全なる自由貿易や過度な規制撤廃を求める彼らの主張は、あまりにも荒唐無稽であり、到底認められない。
80~90年代前半のように、資本や資金・技術の海外移転に適度な規制を設けつつ、高度加工に必要な原材料の輸出入はある程度自由化するような緩やかな自由貿易体制で十分なのだ。
次に、新自由主義者どもの、世界的な低成長や世界規模の貿易量の伸びの鈍化は保護主義のせいだというのは、失笑ものの大嘘であることを指摘しておく。
世界経済や貿易量の伸び率は(リーマンショック後を除くと)2012年頃から鈍化しているが、その頃は、過度な自由貿易論信仰論が世界を席巻した最盛期であり、保護主義など反グローバル主義の萌芽すら感じられぬ時期であったはずだ。
ヒト・モノ・カネ・技術の移動や移転が自由化され、規制が撤廃されたせいで、先進諸国から製造拠点やサービス拠点が後進国へプレゼントされて雇用の場が減ってしまった。
そして、低賃金労働しか能がない後進国との低価格競争の下で企業収益が低下し、家計所得の伸びも鈍化を余儀なくされた。
つまり、先進諸国の労働者層、とりわけ低中階層の所得鈍化が先進国の内需を冷え込ませ、世界的な買い手不在の状態(=需要不足&供給過剰)を創り出し、世界的な低成長や貿易量の鈍化を招いた、というのが事実なのだ。
保護主義ではなく、先進国から需要力を奪い去った新自由主義や過度な自由貿易主義こそが、世界的な低成長や貿易量の鈍化の真犯人だと言える。
新自由主義者どもは、国内から雇用の場を取り上げ、国民から富を奪い、それらを勝手に後進国に投げ渡しておきながら、国民に向かって「これからはグローバル競争の時代だ」と檄を飛ばして、「雇用と所得が欲しければ、後進国の連中と競争して奪い取ってこい」と命じているようなものだ。
彼らは、“雇用と富を海外に流失させ、低賃金労働とデフレを国内に流入させる”という大愚策を「グローバリズム=世界の潮流」と称して、国民を騙し続けてきた。
国民は、元々国内に在った雇用や富を奪われた挙句に遠くに放り投げられ、頭のおかしな新自由主義どもから、“生き残りたければ自己責任と自助努力で取り戻して来い”と理不尽な要求を突きつけられているという事実に、いいかげんに気付かねばならない。
グローバリズムの怪しさや如何わしさに疑問を抱き始めている欧米諸国の国民と比べて、我が国の意識や民度は周回遅れ気味であるのは否めない。
あと4~5年もすると、我が国は、「世界でたったひとつのグローバリストが棲息する国」として世界中から嘲りを受けかねない。