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Channel: 修行中のおっさん
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国を家計に例えるのはやめよう(大機小機)2017/09/02 日本経済新聞 朝刊

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 比喩ばやりである。先日、NHKのインパール作戦についての番組を見て自分の職場や日本社会の理不尽さに思いをはせた人は多いだろう。
 ただ、中には感心しない比喩もある。例えば日銀の金融政策をインパール作戦になぞらえたものだ。物価上昇率が2%に達せず、金融緩和を続ける日銀を揶揄(やゆ)したいのだろうが、適切な例えではない。
 白川総裁時代に比べて物価上昇率は上がり、雇用をはじめ大きな成果を上げている。金融政策を行うのに財源は不要だからなおさら成果は大きい。あえて言えばマクロ経済政策という「補給」を持たずに構造改革という強行軍を推進したことに例えるほうがまだ筋が通る。
 比喩は所詮比喩で、論理の代わりにはならない。それら比喩の中で頻用され、実害が大きいのが国の借金を家計に例えるものだ。財務省のホームページの「日本の財政を考える」には「日本の財政を家計に例えると、借金はいくら?」という項目がある。平成27年度予算を基に、日本は月収50万円の家計が80万円の支出をし、不足分30万円を借金で賄う結果、ローン残高が8400万円に達している、といった次第だ。
 端的に言ってこの比喩は間違いだ。国と家計は異なる。家計は徴税できないが国はできる。通貨発行権という形の徴税権もある。財務省は借金を減らそうと増税を好むから、この間違いは議論を混乱させる。
 そして比喩としても出来が悪い。正確を期するならば、この家計には7000万円の資産があることも言うべきだ。また家計の収入を国に例えるならば、税収ではなくて国内総生産になるはずだ。
 人は類推を好むから、財務省は比喩を使うことで財政問題に国民の関心を喚起したいと考えているのかもしれない。しかし、誤りは誤りである。むしろ誤った比喩に頼ると、誤った処方箋に至る危険性がある。
 ここで提案したい。国の財政を家計に例えるのはもうやめてはどうか。日本の財政状況がどれくらい厳しいのか、どのように財政再建を進めるべきかについては様々な議論がある。しかし、国の財政を家計に例えるのは紛れもない間違いである。政府が間違ったことを公にしているのは問題があるだろう。(カトー)

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